/店主 讃岐 太郎/店主のはなし · 讃岐
讃岐うどん職人歴30年、店主の修業時代
私が讃岐うどんの世界に足を踏み入れたのは、十八歳の春でした。香川県丸亀市の老舗「松屋うどん」の戸を叩いたあの日のことを、今でもはっきり覚えています。
最初の三年間は、ひたすら粉と水と塩の比率を覚える日々でした。季節ごとに、いえ、その日の湿度や気温によっても配合は変わります。親方は何も教えてくれず、ただ「見て覚えろ」とだけ言いました。失敗した生地は何度も自分で食べさせられ、舌で違いを覚えていきました。
足踏みを任されたのは入店から五年目の冬。讃岐うどん独特のコシは、この足踏みの工程で生まれます。リズム、体重のかけ方、踏む順番——すべてに意味があることを、身体で覚えていきました。
三十歳になる年、独立の話を親方にしたとき、ぽつりと「東京で打ってみろ」と言われました。讃岐の味を、讃岐以外の場所でどう伝えるか。それが私に与えられた、もう一つの修業だったのだと、今になって思います。
東京・神宮前に小さな店を構えてから、もう十二年が経ちました。お客様の顔ぶれは丸亀時代とは全く違いますが、一椀に向き合う気持ちは何も変わっていません。打ちたて、茹でたての一杯を、これからも誠実にお届けしていきます。